高山正之著『偉人リンカーンは奴隷好き』新潮社1400円 よりの引用
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中越沖地震把連休のさなかの七月十六日に起きた。 M6.8。 震源からわずか20キロほどの東電柏崎刈羽原発の揺れは半端ではなかった。 原子炉は危ない揺れを感知すると自動的に炉を止める仕組みをもつ。
例えば制御棒の挿入。 原子炉はウランに中性子をぶつけて分裂させ、その際に出る熱エネルギーで発電する。 制御棒はその中性子を吸着する。 中性子がなくなれば炉は止まる。
しかしこの日の地震は想定の六倍のおおきさだった。 炉の運転停止どころでなく予想を超えた不具合の発生もあり得た。
4号機の制御室にいた当直班長、入沢善孝はまず部下に机のしたにもぐるように指示した。 その部屋からは原子炉容器が見下ろせる。 左手の燃料棒貯蔵プールには満々と水が湛えられている。
水は危険なα線やβ線を通さない。 すぐれた遮蔽材だから使用済みを含め燃料棒は真水のプールで保管される。 泳ぎたければ泳いでもまったく危なくない。
ただ今日は様子が違った。 激しい揺れで水面がうねり、岸壁に寄せる波のようにしぶきを跳ね上げていた。 底が抜けたら大ごとだ。
揺れが収まったとき、制御室の計器は緊急停止装置が作動し、炉が正しく停止したことを示していた。
緊急装置も機能を保ち、プールの水もゆっくりと静けさを取り戻していた。 原子炉制御は「止める」「冷やす」ともう一つ「閉じ込める」がある。 高放射性物質が詰まる炉を外界と完全に遮断することだ。
これも正しく作用したが、問題が残った。 運転中だから高温の蒸気が炉心から発電タービンに送られていた。 それが遮断された。
ということは炉心内のパイプには280度の高圧蒸気が残っている。 それを抜くのには長時間の慎重な作業が必要だった。
入沢は部下に言った。「悪いが、自宅に電話をしないでくれ」
揺れは凄かった。 耐震性に万全を期した原発の外では路面に亀裂が走り、陥没もあった。 それで変電室のボヤも起きた。
備えのない民家はもっと深刻な事態が予想された。 実際、後の調査では社員の家31戸が全壊し、82戸が半壊していた。
家だけでなく家族の安否もある。 それを今は考えるなという班長の言葉に全員が頷いた。 お粗末なソ連や米国とは違う。 俺たちの職場から世間様に迷惑をかけるような粗相は出さないという思いからだろう。
汗みどろの__時間が過ぎて圧は見事に抜けた。 _号機も同じ状況だったが、これも夜勤明けの社員や駆けつけた非番社員の協力で正常値に戻った。 一段落した三日目、部下の1人が帰宅したいと班長に伺いを立てた。 もちろんいいが、なぜだ。 『自宅の取り壊しがあるので』と部下は答えた。
家庭より原発の安全性を優先させた責任感を日本機械学会が表彰した。 少なくとも福知山線の事故現場から逃げ出したJR職員とは雲泥の差がある。 しかし地震発生から密着取材した朝日新聞はこの話をネグった。 代わりに、泳いでも平気な燃料プールの水がバケツで何杯か排水口から日本海に流れ出て「日本海が汚染された」という大嘘を書き並べた。
びっくりした国際原子力機関が調査にきて汚染水流出を否定した上で、七段階の事故評価を「0」つまり安全上の問題はまったくなかったとした。
しかし朝日は「調査団はなお長期間の点検が必要だと言った」ともっと大嘘をついて、原発の運転に待ったをかけた。
このデマで東電は火力発電に頼ることになり、排出CO2が増えた。 朝日はその分、中国から排出権を買えと勧める。 その一方で朝日の立てた風評被害の尻拭いに東電は三十億円を支払わせた。 こんなごろつき新聞をほかに知らない。
朝日は先日の社説で「自然エネルギー利用を拡大して原発をやめろ」と書いた。
馬鹿に教えてやる。 ガボンのオクロには天然の原子炉がある。 あれも立派な自然エネルギーなのだ。